1年単位の変形労働時間制とは?年間休日は何日必要?割増賃金の支払いが必要な時は?

10月31日厚生労働省HPで公表された「令和5年就労条件総合調査の概況」によると、変形労働時間制を採用している企業割合は59.3%と約6割の企業で、何らかの変形労働時間制が採用されています。変形労働時間制の種類(複数回答)別にみると「1年単位の変形労働時間制」が 31.5%、「1か月単位の変形労働時間制」が 24.0%と1年単位の変形労働時間制が最も多く採用されています。

出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」

この記事では、1年単位の変形労働時間制を採用する方法や必要な年間休日日数、1年単位の変形労働時間制を採用していても残業代(割増賃金)の支払いが必要なケースについて詳しく解説します。

変形労働時間制とは?

労働基準法では、労働者が労働できる時間は、原則として「1日に8時間まで」「1週間に40時間まで(*特例措置対象事業は週44時間)」とされています。(法定内労働時間)

(労働基準法第32条第1項・第2項)

*常時労働者が10人未満の商業・理容業・興行(映画製作の事業を除く)・保健衛生業(病院・診療所・保育所・介護事業所など)・接客娯楽(旅館・飲食店など)

しかし

■1回の夜勤が16時間勤務と長い病院や特別養護老人ホームなど月初・月末・特定の週が忙しい場合は、1か月単位の変形労働時間制

■「ボーナス商戦の季節は忙しいが、2・6月は仕事が少ない」という小売業などのように、季節によって仕事量が大きく違う場合は、1年単位の変形労働時間制

を採用することで、一定要件のもと一定期間を平均して1週間の労働時間が40時間を超えない範囲で、特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間を超える勤務が可能になります。

1か月単位の変形労働時間制については、下記の記事をご覧ください。

特定の季節や月に忙しい業務に効果的な1年単位の変形労働時間制とは?

「1年単位の変形労働時間制」とは、労使協定で対象期間と定められた期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場も40時間)を超えない範囲内で、対象期間中の特に業務が忙しい期間(特定期間)の労働時間が、特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間(特例措置対象事業場も40時間)を超えたりすることが可能になる制度です(労働基準法第32条の4)。

1年単位の変形労働時間制を採用するためには、労働組合や労働者の過半数を代表する者と書面による協定により、下記①~④のすべてを定め、所轄の労働基準監督署長に届け出ることが必要です。

■労使協定で定めること

①対象労働者の範囲

②対象期間(その期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内で労働させる期間で、1か月を超え1年以内の期間)と起算日

③特定期間(対象期間中の特に業務が忙しい期間)

④対象期間における対象期間労働日および労働日ごとの労働時間

⑤労使協定の有効期間

なお以下の労働者には、1年単位の変形労働時間制を採用できません。

・満18歳未満の年少者。ただし、満15歳以上満18歳未満の者(満15歳に達した日以後の最初の3⽉31日までの間を除く)については、1週間48時間、1日8時間を超えない範囲で採⽤可

・妊産婦(妊娠中および産後1年を経過しない⼥性)が請求した場合

対象期間中に労働できる時間や連続して労働させる日数の限度は?

対象期間における「労働日数や労働時間」「1日および1週間の労働時間」「連続して労働させる日数」「総所定労働時間および必要な休日日数」の限度は、下記のようになります。

対象期間における労働日数の限度■対象期間における労働日数の限度は、1年あたり280日 *1
■対象期間が3か月を超え1年未満の場合は下記の計算で求めた日数
280日×対象期間の暦日数/365 (端数は切り捨て)
対象期間における1日および1週間の労働時間の限度■1日の労働時間の限度は10時間、1週間の労働時間の限度は52時間
■対象期間が3か月を超える場合*2は下記の両方を満たす必要あり
①労働時間が48時間を超える週が連続できるのは3週間以下
⓶対象期間を初日から3か月ごとに区分した各期間で、労働時間が48時間を超える週は、週の初日で数えて3回以下
連続して労働させる日数■対象期間で連続して労働させる日数の限度は6日
■特定期間で連続して労働させる日数の限度は「1週間に1日休みが確保できる日数」→連続労働日数は最長12日
対象期間における総所定労働時間下記の計算で求めた時間内
所定労働時間の限度=40時間×(対象期間の暦日数/7日)

*1 下記の①および②のいずれにも該当する場合には、旧協定の対象期間について1年当たりの 労働日数から1日を減じた日数または 280 日のいずれか少ない日数が、対象期間における労働日数の限度となる(対象期間が3か月を超え1年未満である場合は、上記と同様に計算した日数)。
① 事業場に旧協定(対象期間の初日の前1年以内の日を含む3か月を超える期間を対象期間として定める1年単位の変形労働時間制の労使協定(そのような労使協定が複数ある場合は直近の労使協定)があるとき。
② 労働時間を次のいずれかに該当するように定めることとしているとき。
ア 1 日の最長労働時間が、旧協定の1日の最長労働時間または 9 時間のいずれか長い時間を越える

イ1週間の最長労働時間が、旧協定の1週間の最長労働時間または 48 時間のいずれか長い時間を超える。
(労働基準法施行規則第12条の43

*2 積雪地域の建設業の屋外労働者などは、上記①および⓶の制限はなし(対象期間の長さに関係なく、1日の労働時間の限度は10時間、1週間の労働時間の限度は52時間)。また隔日勤務のタクシー運転手については、1日の労働時間の限度は16時間。

なお静岡県労働局の「労働時間チェックカレンダー(令和6年・令和6年度版)」では、1年単位の変形労働時間制を採用している場合、

■対象期間における労働時間が、限度を超えていないか?

■1日および1週間の労働時間の限度を超えていないか?

■対象期間における総所定労働時間が、限度を超えていないか?

を超えていないかをチェックできます。「労働時間チェックカレンダー(令和6年・令和6年度版)」については、下記の記事をご覧ください。

対象期間中に労働できる時間の上限や必要な休日日数は?

対象期間における「総所定労働時間の限度」は、下記の計算で求めた時間となります。

対象期間における「総所定労働時間」=40時間×(対象期間の暦日数/7日)

また対象期間における「必要な休日日数」は、下記の計算で求めた日数となります。

対象期間中の労働日数=「総所定労働時間の限度」÷1日の所定労働時間
「必要な休日日数」=対象期間の暦日数ー対象期間中の労働日数

なお、対象期間における労働日数の限度は、1年あたり280日で対象期間が3か月を超え1年未満の場合は(280日×対象期間の暦日数/365日) であるため必要な休日日数の限度は、下記のようになります。

例:対象期間が6か月(183日)で1日の所定労働時間が7時間の場合

総所定労働時間の限度=40時間×(対象期間の暦日数183日/7日)=1045.71

労働させる日数の限度=総所定労働時間の限度1045.71時間÷1日の所定労働時間7時間=149.38日

対象期間が6か月(183日)ー 労働させる日数の限度(149.38日)=33.62日

ただし対象期間が3か月を超え1年未満の必要な休日日数の限度は、

対象期間6か月(183日)ー(280日×対象期間の暦日数183日/365日=140日)=43日 であるため、この場合の必要な休日日数は、43日以上となります。

対象期間における総所定労働時間の限度と1日の所定労働時間別の必要な休日日数は、下記をご覧ください。

  対象期間         1年(365日)                     1年(366日)                 
総所定労働時間の限度          2085.7時間        2091.4時間
1日の所定労働時間
8時間       
  必要な休日日数は105日       必要な休日日数は105日
1日の所定労働時間
7時間45分
  必要な休日日数は96日   必要な休日日数は97日
1日の所定労働時間
7時間30分
  必要な休日日数は87日   必要な休日日数は88日
1日の所定労働時間
7時間15分
  必要な休日日数は85日   必要な休日日数は86日
1日の所定労働時間
7時間
  必要な休日日数は85日   必要な休日日数は86日

1年単位の変形労働時間制を採用しても割増賃金の支払いが必要な時は?

1年単位の変形労働時間制を採用している場合でも、下記に該当する時間は、時間外労働となり割増賃金の支払いが必要です。

⑴ 1日についての法定時間外労働

労使協定で1日8時間を超える労働時間を定めた日はその時間を越えて労働した時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

(2) 1週間についての法定時間外労働

労使協定で1週40時間を超える労働時間を定めた週はその時間を越えて労働した時間、それ以外の週は1週40時間を超えて労働した時間(上記⑴ で、すでに時間外労働として計算した時間を除く)

(3) 対象期間についての法定時間外労働

対象期間の法定時間の総枠を超えて労働した時間(上記⑴ または(2)で、すでに時間外労働として計算した時間を除く)

(平9・3・25基発第195号)

1年単位の変形労働時間制に関する協定届を本社一括届出できる時は?

1年単位の変形労働時間制に関する協定届は、原則として事業場単位でそれぞれの所在地を管轄する労働基準監督署に届け出る必要があります。ただし2023(令和5)年2月27日から、電子申請で届出をする場合は、下記の条件を満たす時は、36協定届や就業規則届と同様に、本社で各事業場の協定届を一括して本社を管轄する労働基準監督署に届け出ることが可能となりました。

【本社一括届出が可能な要件】

電子申請による届出で、以下の項目の記載内容が同一であること

(事業場ごとに記載内容が異なる以下の項目については、厚生労働省HPまたはe-Govの申請ページから「一括届出事業場一覧作成ツール」をダウンロードし、内容を記入して添付する)

▪事業の種類、事業の名称、事業の所在地

▪常時使用する労働者数

▪所轄労働基準監督署

▪該当労働者数(満18歳未満の者)

▪管轄労働局▪協定当事者・協定成立年月日

▪対象期間及び特定期間(起算日)

▪対象期間中の各日及び各週の労働時間並びに所定休日(※)

▪対象期間中の1週間の平均労働時間数

▪協定の有効期間

▪労働時間が最も長い日の労働時間数(満18歳未満の者)

▪労働時間が最も長い週の労働時間数(満18歳未満の者)

▪対象期間中の総労働日数

▪労働時間が48時間を超える週の最長連続週数

▪対象期間中の最も長い連続労働日数

▪対象期間中の労働時間が48時間を超える週数

▪特定期間中の最も長い連続労働日数

▪使用者の職名及び氏名▪旧協定の内容

出典:厚生労働省リーフレット「令和5年2月27日から、一年単位の変形労働時間制に関する協定届も本社一括届出ができるようになりました」

まとめ

働き方改革による時間外労働の上限規制の施行により、新たに「時間外労働と休日労働の合計時間」が毎月100時間未満で、なおかつ2か月~6か月平均すべてが1か月あたり80時間以内となるようにする労働時間の管理が必要となりました。長時間労働の職場は、離職率が高く慢性的に人手不足となるため、職場環境の改善に、変形労働時間制などをご活用ください。

下記の記事もご覧ください。




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