常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、過半数組合または労働者の過半数代表者からの意見書を添付し、所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。(労働基準法第89条、90条)また内容を変更した場合も、所轄の労働基準監督署に届け出が必要です。常時10人未満の労働者を使用する小規模な事業所は、就業規則の作成・届出義務はありませんが、キャリアアップ助成金など助成金の申請をする時に、就業規則が必要なものもあります。当記事では、就業規則に必ず記載が必要な事項やモデル就業規則を基に自社で就業規則を作成する場合の注意点について、詳しく解説します。
就業規則の作成しなければならない「常時10人以上」の労働者は?
就業規則の作成・届出が義務づけられている使用者は、正社員だけなくパート・アルバイトなども含めて「常時10人以上」の労働者を使用する人です。一時的に、10人未満になることはあっても、常態として10人以上の労働者を使用する場合は、就業規則の作成・届出が必要です。
なお派遣社員は、派遣元の会社の労働者としてカウントされるため、算入しません。
また、就業規則は、企業単位ではなく事業場単位で作成し、届け出なければなりません。例えば、1企業で2以上の営業所、店舗などがある場合、企業全体の労働者の数を合計するのではなく、各営業所や店舗などを1つの事業場としてとらえ、常時使用する労働者が10人以上の営業所や店舗は、就業規則の作成・届出が必要です。
就業規則に必ず記載が必要な事項は?
就業規則には、必ず記載が必要な「絶対的必要記載事項」と定めることは任意だが、定めた場合に記載が必要な「相対的必要記載事項」があります。育児・介護休業法の改正により新設され、2022年10月1日から施行された「産後パパ育休(出生時育児休業)」は、就業規則に必ず記載が必要な「休暇」に該当するため規定が必要です。
絶対的必要記載事項 | 相対的必要記載事項 |
①始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇 並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項 ②賃金の決定、計算および支払の方法、賃金の 締切りおよび支払の時期並びに昇給に関する事項 ③退職に関する事項(解雇の事由を含む) | ①退職手当に関する事項 ②臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項 ③食費、作業用品などの負担に関する事項 ④安全衛生に関する事項 ⑤職業訓練に関する事項 ⑥災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項 ⑦表彰、制裁に関する事項 ⑧その他全労働者に適用される事項 |
「モデル就業規則」を基に自社で就業規則を作成する時の注意点は?
自社で就業規則を作成する場合、代表的なテンプレートとして、厚生労働省の「モデル就業規則(令和5年7月版)」があげられます。各条文例の下に記載されている解説を参考にして、自社の実情に合わせた就業規則を作成することができます。
なおモデル就業規則では、パートタイム・有期雇用労働者の就業に関する事項と育児・介護休業等の取扱いについては、
p.10 (第2条 適用範囲)
2「パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。」
・P.44 ( 第28条 育児・介護休業、子の看護休暇等)
2 「育児・介護休業等の取扱いについては、「育児・介護休業等に関する規則」で定める。」
と委任規定を設けたうえで、詳細を就業規則本体とは別規定に定めるとしています。
モデル就業規則を参考にして自社の就業規則を作成した場合、就業規則とは別に、パートタイム労働者・有期雇用労働者に関する規程や育児・介護休業等に関する規程を作成し、所轄労働基準監督署長への届出が必要となるのでご注意ください。
モデル就業規則に記載がない職場におけるハラスメント防止対策は?
職場におけるパワーハラスメント・セクシュアルハラスメント・妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントを防止するために、事業主が雇用管理上講ずべき措置として、必ずしなければならない措置が、厚生労働大臣の指針に定められています。そのひとつに「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」があります。具体的には、職場におけるハラスメントの内容および職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の事業主の方針・懲戒処分など対処の内容を就業規則などの文章に規定し、労働者に対して周知・啓発する必要があります。厚生労働省の「モデル就業規則」には、パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント・妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント・その他あらゆるハラスメントの禁止と対処の内容についての条文例はありますが、ハラスメントの内容についての詳しい条文例がありません。
自社で就業規則にハラスメントの内容を追加して記載するか、「職場におけるハラスメントについては、第12条・第13条・第14条・第15条・第68条のほか詳細は、職場におけるハラスメントの防止に関する規定により別に定める」など就業規則に委任規定を設けたうえで、別に規定しておきましょう。
出典:厚生労働省「モデル就業規則(令和5年7月)」
建設業やバス・タクシー・トラック運転者、医師など就業規則の見直しが必要な理由
2024年4月1日から、建設業やバス・タクシー・ハイヤー・トラック運転者、医師などに対して、時間外労働の上限規制が始まり、1年間に残業できる時間が法律で規制されます。
2024年4月1日からの建設業やバス・タクシー・ハイヤー・トラック運転者、医師などの時間外労働の上限規制については、下記の記事をご覧ください。
またトラック・バス・タクシー・ハイヤー運転手の拘束時間や運転時間・連続運転時間などを定めた自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)が一部改正され、2024年4月1日から適用されます。
2024年4月1日からのトラック運転手の運転時間・連続運転時間などについては、下記の記事をご覧ください。
2024年4月1日から、バスの運転手の運転時間・連続運転時間などについては、下記の記事をご覧ください。
2024年4月1日からのタクシー・ハイヤー運転手の運転時間・連続運転時間などについては、下記の記事をご覧ください。
2024年3月末までに、自動車運転業務者や建設業・医師などの労働時間が、時間外労働の上限規制や自動車の運転時間などが、改正後の改善基準告示に対応するように就業規則や賃金規程の見直しや変更をしておきましょう。
まとめ
育児・介護休業法の改正により、就業規則や育児・介護休業規程も変更が必要ですが「産後パパ育休(出生時育児休業)の規定がない」「育児休業の2回分割取得の規定が無い」「1歳以降の育児休業開始日を柔軟化できる規定が無い」と2022年10月1日から施行されている改正に対応できていないケースが多く見受けられます。なお就業規則本体とは別に、育児・介護休業規程を規定している場合も、育児・介護休業規程を変更した場合は、労働基準監督署に届出が必要なので、ご注意ください。
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